QEDとalpha振動子理論について 2

論文[1]にあるalpha振動子理論では、1個の生成演算子をalpha振動子と呼ぶ多数の演算子の和で書く。電磁場のベクトルポテンシャル A は式(3.19), (3.20)と展開するが、普通の教科書と違い、時空間のFourier変換をする。まず古典論でこの展開を考えると、 A(rt) のFourier変換はできるので、その係数を正準変数と見なし量子化できるか、理論の内部矛盾や実験との整合性から判断する必要がある。

次に量子論のSchrodinger表示でこの展開を考える。 Q k , P k を演算子と見なすと、ベクトルポテンシャル演算子 A

A(r)= 4π k Q k cos(kr) P k /ωsin(kr)
であり、時間変数を陽に含まない。式(3.19), (3.20)は、時間tについて定数関数をFourier変換で表現する事になる。つまり展開の右辺は時間tを含むように見えるが、左辺は t を含まない。ハミルトニアン H QED (t) はベクトルポテンシャル A で書けるので、やはり t に陽に依存しないと思う。

Alpha振動子として導入した多数の演算子は論文[2]で、普通の生成演算子が正しい性質を満たすよう、付加条件を課している。そこで普通の量子論と矛盾する結果、例えば H QED (t) は時間に依存する、は出ないと思いたい。

H QED (t) の時間依存性はさておき、それを状態ベクトルではさんで得られる実数は、何を表わすか。普通の理論では(無限大の零点エネルギーを含む)エネルギーの期待値を表わす。それらは時間に依存しないので、真空を基準にしたエネルギーも一定になる(エネルギー保存則)。上の実数が一定でない場合、閉じた系のエネルギーが保存しないのだが、これは正しいとは思えない。そこで、ハミルトニアンが時間に陽に依存し、状態ベクトルがこのハミルトニアンに従って運動する時、上の実数が一定値を保つ事はあるか考えよう。以下で見るように、初期状態ベクトルは任意に選べるので、これはあり得ないと思う。

初期時刻t=0付近でハミルトニアンを H(t)= H 0 +t H 1 と展開し、 H 0 を無摂動とする相互作用表示を使って議論する。エルミート演算子 H 1 の完全系を ( ϵ k , χ k ) とする。上の実数が一定値を保つには、任意の状態ベクトル χ に対して χ| H 1 |χ=0 が必要。だが非ゼロの ϵ k に対応する χ k を初期状態ベクトルに選ぶとゼロにならない。

結論を述べると、(i) H QED は時間に陽に依存しない (ii) H QED (t) を状態ベクトルではさんで得られる実数は、一般に時間に依存する。つまり閉じた系のエネルギーは保存しないと文献[2]は予想するので、私はエネルギー保存則を支持し、文献[2]の式(1.1)は誤りだと思う。

このような当たり前の結論を得て、私は物哀しい気持ちになった。京大工学部の立花研究室には、教授、講師、助教、修士学生がいて、科研費も取っていて、私より立派な研究室である。 H QED が時間に陽に依存するという驚くべき結論に対して、研究室で議論はされなかったのだろうか。議論は科学教育でとても重要な部分なのだが。論文[2]の投稿時に審査者やeditorは真剣に読んだのだろうか。まあ、論文審査に時間をかけられないとか、嫌な事を書くと嫌われる気持ちは分からないでもないが、日和ってはいけない。

ひょっとしたら私の論理に間違いがあるのかもしれない。立花先生は教科書を執筆中らしいので、その完成後に再検討したい。